朝のコーヒー儀式
朝、目覚めて最初にすることは湯を沸かすことだ。やかんに水を注ぐあいだ、まだ頭の半分は眠っている。ガスコンロの青い炎を眺めているうちに、少しずつ意識が立ち上がってくる。
豆を挽く音は、ささやかながら確かな目覚ましになる。手挽きのミルを十数回まわすと、香りが部屋に広がる。粉の粗さも、湯の温度も、その日の気分に合わせて少しずつ変える。決まりごとはないが、なんとなく身体が覚えている手順がある。
ドリッパーにフィルターをセットして、最初の少量の湯を注ぐ。粉がふくらむのを見守る数十秒は、不思議と心が静まる時間だ。スマートフォンを見ずに、ただ立ったまま湯気を眺める。一日のうちで、もっとも何も考えていない瞬間かもしれない。
注ぎ終わったコーヒーをマグに移して、窓辺に持っていく。最初のひと口は、いつもより少しだけ熱く感じる。そこからようやく、今日が始まる。